チリンのすず 作 やなせたかし 出版 フレーベル館

オオカミのウォーに襲撃され、母親を失った子羊のチリン。
チリンは強くなってウォーに復讐するため、ウォーに弟子入りして修行をはじめます。
やがてチリンは、強く、たくましく育ち、羊とも思えないものすごいけだものになっていきます・・・

表紙のかわいいチリンのイラストを見て

山や野原を駆け回るかわいいチリン。いじわるなオオカミにもかしこいチリンのひらめきで対抗して、オオカミは尻尾を巻いて逃げていきます。

みたいな、かわいらしいストーリーを想像するととんでもない目にあいます。
昔はアニメ映画も作られたそうですが、相当のトラウマ作品だったんじゃないかと思います。

このかわいいイラストから

「死ね!ウォー!」

なんてセリフが出てくるとは想像がつかないでしょう、でてくるんだな、これが。

日々戦いに明け暮れているアンパンマンですら、「死ね」とは言っていないはずです。
やっつける、倒すくらいはあるにしても、バイキンマンを殺すことはありません。

戦いの結果、チリンはウォーを殺します。
しかし、チリンの母親の羊はすでに殺されているし、育ての親であり、憎い敵であるウォーは自分が殺してしまった。
残されたチリンは、復讐のために異形の怪物に成り果ててしまい、元の羊にも戻れない。

ウォーにもウォーなりの事情があります。いつか復讐されることを予想しながらも、チリンを育て上げたのはウォーですし、そこになんらかの葛藤がなかったはずがありません。

「おまえにやられてよかった おれはよろこんでいる」というウォーの言葉にそれは現れています。
チリンの成長を喜ぶ気持ちもあったのかもしれません、チリンの母親を殺した後悔もあったのかもしれません。ウォーも悩みながら戦いの道を進んでいたのでしょう。

オオカミのウォーは多分、戦争の「War」なのだと思います。

やなせたかしさんは昭和16年に徴兵されて、日中戦争にも出征していたそうです。
戦争のために変わり果てていく人の姿もたくさん見たんじゃないでしょうか。
戦いに一部の理もないのというとそうでもない。でも、復讐を果たしたところで結局何も残されず、虚しいだけ。

姿を消したチリンはどこにいってしまったのか、どこかでひっそりと生きていてくれることを願ってやみません。

戦いは結局、誰も幸せにすることが出来ないんだろう。

苦しくて悲しくて、結局救いのない話です。とてつもなく重いのですが、一度は読んでほしい名作です。
大人にぜひ読んでほしい一冊です。泣けます!

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