おいしいおと 文 三宮麻由子 絵 ふくしまあきえ 出版 福音館書店

ごはんに、はるまき、ほうれんそう、わかめのおみそしる、レタスにソーセージ、デザートはりんごとシャーベット。カル カル カル、ズック ズック ズック、ピララルッ リョリュ リョリュ。ちょっと独特なオノマトペですが、読んでみるとなんとなくそんな気がしてくる。ほんとにそんな音がするのかな?と食べて確かめてみたくなります。

ごはんを「もぐもぐ」と食べるものだと聞かされてきましたから、ごはんを食べる音は「もぐもぐ」だと思って生きてきました。

春巻きは「パリッ」と音がするんだろうし、レタスは「シャキシャキ」、りんごは「シャクシャク」文字に表して違和感のないのを自然と選んでいるように思います。

子供が絵日記で「ほうれんそうをズックズックズックと食べました」と書いたら、ちょっと違うんじゃないの?と先生からもお友達からも言われてしまいそうです。

「おいしいおと」は以前に紹介した「でんしゃはうたう」の三宮麻由子さんの作品です。

作者の三宮麻由子さんは、4歳で視力を失ったそうです。

そんな作者が「真っ白い耳」とインタビューで答えていますが、視覚情報を頼りにせず、音を文字に起こすという、「見える化」ならぬ「聞こえる化」した作品です。

「でんしゃはうたう」では、電車の中で聞こえる音、線路から聞こえる音、すれ違う電車の風圧、車内アナウンス、それをすべて音として文字にして表現しています。

「おいしいおと」で表現しているのは、食べている人から聞こえてくる音ではありません。

自分の内側から聞こえてくる音、口の中から、熱いものが口に入るところ、歯を通して、骨を通って耳に届く音を表現されています。

ピララルッ リョリュ リョリュ リョリュ
ツススッ クン

なんの音だと思いますか?

わかめのみそしるのわかめを食べて、みそしるをすする音です。

わかめをチュルっと口に入れてモグモグ食べて、ずずっとみそしるをすすると表現するのが常識なんでしょうか。

インスタントに入っている薄いわかめではなくって少し大ぶりの上等なわかめは、吸い上げると汁を少し飛び散らせてしまいます。厚めのわかめは歯ごたえもしっかりあります。
熱い味噌汁は少ししか口に入れられず、熱くて味わう間もなく喉を通り抜けてしまいます。

そんな情景がはっきりと浮かんでくるような気がしませんか?

ニワトリの鳴き声だって、ニワトリはコケコッコーと鳴いてるわけでもなく、クックドゥルドゥーともキッキリキーと言おうと思って鳴いているわけでは有りません。

常識だと思いこんでいることも、それを押し付けることのないように、他人の常識も受け入れてみるのが大切なんだと思います。

リョリュリョリュリョリュとわかめを食べると聞いて、いやいや、それはおかしいじゃんではなくって、実際に食べてみて確かめてみたら、あら、意外にそうかもねなんて思ってみることが、多様な価値観を認める第一歩なのかななんてことも思うのは考えすぎかな?

そんなことを考えてアマゾンのレビューを見てみたら

「子供が楽しくごはんをたべてくれます!」

なんてのが並んでいます。なるほど、難しく考えなくてもいっか!(笑)

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