しばてん 作 田島征三 出版 偕成社
相撲が強いガキ大将の太郎は、妖怪しばてんの生まれ変わりだと言われ、村を追い出されてしまう。
大飢饉が訪れ、飢え苦しむ村人の前に現れた太郎は、食べ物を独り占めする長者の蔵の打ちこわしに加勢し、長者を相撲で投げ飛ばす。大活躍の太郎は村人に引き止められ村での幸せな生活が帰ってきた。
しかし、太郎を称えていた村人も、代官が犯人探しにやって来た途端、「しばてんがやった」と太郎に罪をかぶせてしまう。捕まった太郎は、二度と帰ってこなかった。
みなし児の太郎を育てたのは村人
しばてんの生まれ変わりだと村を追い出したのも村人
飢饉から救った太郎を村に引き止めたのも村人
代官に太郎をつきだしたのも村人
なんて勝手な村人だ!と思いながら、はて、自分が村人だったらどうしただろうかと考える。
都合の良いときだけ利用しておいて、都合が悪くなったらさっさと切り捨てる。
なんだかいろんなところで思い当たるような気もします。
芸能人のあの人や、首相のあの人、自分だって同じことしてたんじゃないの?
最後はこんな言葉で締められています。
秋祭りが来るたびに、村人たちは、いなくなったたろうのことをおもいだす。
じぶんたちのこころに、いつからかすんでいる しばてんのことをおもいながら
このあとは、村人たちは同じ過ちを繰り返さずに済んだのでしょうか?
いろいろと考えさせられる絵本です。
ちなみに、作者の田島征三さん、いろんな本を出されていますが、前に紹介した、「おおかみのはつこい」も絵を田島征三さんが担当されています。
この「しばてん」が実質的なデビュー作なんだそうです。実質的な、というのは正式に初めて出版されたものは別の作品なんですが、大学の卒業制作で自費出版したのがこれなんだそうな。
あとがきに、子供が読むものだからこそ作家には重い責任を感じるということが書いてあるんですが、そう思うと、たしかにそんな覚悟が伝わってくるような絵、内容です。デビュー作からこれというのも凄みを感じます。
ちびっこ向けではないし、後味が悪い話です。でも、いつか読んでほしいし、時々思い出してほしいお話です。