さかなくん 作 しおたにまみこ 出版 偕成社
さかなくんは学校に行きます。さかななので水の外に出られないので、ゴムのズボンとガラスのヘルメットをかぶり、ヒレにクリームを塗って、ゴムの靴を履いてでかけます。だいたい学校は好きなさかなくんだけど、走るのが苦手なので体育は大嫌いです。
さかなくんといえば、「ああ!あの魚に詳しくってハイテンションなあの人でしょ?」と思うところですが、お魚の「さかなくん」です。あのひとは「さかなクン」さんです、お間違えのないように。
潜水艦みたいなものに乗っているのかと思って読んでみたら、水から出て活動できるように、ガラス瓶の中に入っています。手と足として出ているところはヒレなんですが、乾燥しないようにクリームを塗るところなんかは、そんなことはないだろうというファンタジーな中の一匙のリアルな設定というのが面白いです。朝塗るだけで一日持つんだろうか?休み時間ごとに塗り直さないといけないんじゃないの?と心配になります。
そんな陸上生活をおくるために完全防備のさかなくんの姿を見て感じたのは、車いすです。
車いすで学校に通おうと思ったら、準備から何からいろいろと大変なんだろうと思います。でも、きっとこのさかなくんが通う学校だったら、さかなくんと同じように、楽しく学校に通うことができるんじゃないかと思う。
現代は「多様性」なんて言葉が盛んに言われていますが、さかなくんの通う学校は、さかなくんだけじゃなくて、人間、犬、猫、鳥、とかげ、いろんな生き物が通っている多様性の宝庫のような学校です。
さかなくんが、大変な思いをしながらも楽しく学校に通えてるのは、周りがその状況をハンデキャップだと思って周りが気を使うのではなく、まわりがその状況を個性なんだと思って、その状況を周りが理解しているからのような気がします。
さかなくんはリレーで転んで怪我をして早退するんですが、気にして見に来てくれた友達が、トカゲさんとにんげんくんでした。
それをみて、ハッとしたんですが、そりゃ魚がさかなくんだったら人間はにんげんくんだよなと。
なんだかそういうすべてをそのまま受け入れるようなフラットな感じがステキなお話です。
ぜんぜん泣けるような話じゃないのに、優しい感じにこみ上げてくるものがありました。うーん、年を取ったなぁ笑
表紙を見てて、なんか見たことあるなぁと思ったら「たまごのはなし」と同じ作者さんでした。
モノクロの絵のイメージだったのが、今回は木炭と鉛筆に更に水彩を加えてるということで、非常にカラフルです。
たまごは不気味な目つきだったんですけど、さかなくんは目がくりくりでかわいい。なんかグッズとかあったら買っちゃいそうなかわいさです。
表紙のさかなくんの絵にしても、水面の表現がすばらしいです。ちゃんと水面の光の屈折が表現されてて、背中が水面に写ってる感じがわかるでしょうか? どこもこんな感じでみっちりを書き込まれてて見応えたっぷりです。
今調べてみたら、ちょうど今週末から山梨県の清里で原画展だそうです。ちょっといってみたいかも。近くの方はぜひどうぞ。