桃太郎が語る桃太郎 文 クゲユウジ 絵 岡村優太 出版 高陵社書店

桃から生まれた桃太郎は、おじいさんとおばあさんのもとで育ちます。
大きく、強く育った桃太郎は、村人たちを苦しめる鬼を退治するため、犬、猿、雉の仲間を引き連れて鬼ヶ島に向かいます。鬼を退治した桃太郎は、奪われた金銀財宝を取り戻し、村に戻りおじいさんとおばあさんと幸せに暮らしましたとさ。というおなじみの桃太郎が、桃太郎自身の視点で語られます。

「1人称童話シリーズ」の第一弾として登場したこの絵本は、物語がすべて「桃太郎」の視点で描かれています。物語の中の桃太郎は、手と足がでてくるだけで、顔は一切でてきません。
横向きの絵本なんですが、見開きの2ページ分がひとつの視点として描かれています。鬼と戦うシーンは、正面に鬼と刀を持つ手が中央に描かれていて、まるでデュアルモニターでFPS(ファーストパーソン・シューティング)ゲームをしているような視点です。

「ぼくはいつの間にかふるえていました。ぼくは鬼が怖いと思いました。」
第三者視点では語られることのなかった、おじいさんとおばあさんを心配する気持ち、鬼を前にした桃太郎の心の葛藤、旅に出た桃太郎の心細い気持ちなど、桃太郎の気持ちが語られています。

あとがきに「本書の語りは「例文」に過ぎない」とあるとおり、これが唯一の正解ではありません。読んだ人の数だけ正解はあると思います。

自分が桃太郎だったらどう思うだろう、鬼だったらどう思うだろう。鬼退治に行くという桃太郎をおじいさんだったらどう止めようとしただろう?
桃太郎だけの視点で語ることで、逆に他の登場人物の見方だったらどうなるんだろうという想像力を広げてくれているような気がします。なかなか面白い視点です。

ちなみに、一人称童話シリーズはこの他にもシンデレラと浦島太郎がでています。

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