くろいの 作 田中清代 出版 偕成社
一人で帰るいつもの道で見かける真っ黒な不思議な生き物「くろいの」。ある日思い切って声をかけたら、棚からコトコト下りてきて、トコトコあるき出しました。くろいのの家に招かれてお茶を飲み、屋根裏につれていってもらうと、そこには不思議な世界が広がっていました。
読み終わってもう一度見直してみて、ああ、これ全部モノクロなんだと気づく。読んでる間は色がついてないことに違和感を感じないというか、屋根裏でくろいのと遊ぶシーンなどは、イルミネーションみたいなカラフルな色彩を感じていました、全くのモノクロなんですが。
著者紹介には「銅版画と絵本の制作を始める」としか書いておらず、これがどういう手法で書かれたかは絵本本体では全く触れられていませんですが、調べてみたらインタビューを見つけ、銅版画で書かれた絵だとのことでした。そして調べてから改めてよく見たら帯に書かれてた、見落としてた!
結局なんだかわからなくて「くろいの」としか言いようが無い不思議な生き物。
女の子の目にしか見えてないこの不思議な生き物と過ごした時間は、現実なのか、それとも夢の話なのか。なんだかトトロみたいだなって印象です。
女の子はくろいのに連れられてのぼった屋根裏で、巨大な猫?の背中でお昼寝をします。猫の毛につつまれた中で、女の子はおかあさんの夢を見ます。
いつも一人で帰っているところや、帰り道のお父さんと出会うところなどと併せて考えてみると、きっと女の子のお母さんはもう亡くなっているんじゃないかという気がします。
ふかふかの毛につつまれながら見た夢はきっととっても幸せな夢だったんでしょうね。
もしかしたら、この「くろいの」は寂しい子にだけ見えるのかもしれません。
寂しい子が寂しくならないように、「くろいの」は時々現れてはこっそり遊んで慰めてくれるのかな?
おばけ?妖怪? 謎の生物に家に招かれて、屋根裏に連れて行かれるなんて、どこかで危険なことが、神隠しにあったりするんじゃないかと心配になってたんですが、心が暖かくなるような話で安心しました。
謎の生き物「くろいの」は一見不気味なんですが、読んでるとどんどん可愛く思えてきますよ。
不思議でふわっと暖かくって、でもちょっと切ない、そんなお話でした。