どろぼうがないた 作 杉川としひろ 絵 ふくだじゅんこ 出版 冨山房インターナショナル

丘の上にひとりで住むどろぼうが、忍び込んだお屋敷で見つかりそうになって慌てて持ち帰った小さな箱には小さな鉢が入っていた。芽が出て、葉が開き、どんどん育っていく植物を見るのが楽しくなってきたどろぼうは、たからものなんてもういらないとどろぼうをやめて、畑を耕しはじめた。そんなある日、突然おこった戦争に、畑も家も踏み荒らされて・・・

小さな芽が育っていく様に心を動かされたどろぼうが改心したところで、戦争が起こってすべてが台無しにされてしまいます。育てていた畑も、そしてやっと育って花を咲かせるのを楽しみにしていたゆりの花も無惨に踏み潰され、どろぼうは踏み潰された花びらにそっと触れ、初めて涙を流します。

物語に描かれた結末としてはこんなところです。
単純に文字だけを読んだとしたら、かなり悲しい話だと思います。やっと咲いた花も無惨に踏み潰されてしまう、せっかく改心したのに、泣き崩れるどろぼうの姿に戦争の悲惨さが描かれているように思います。

ただし、これは単純に文字を読んだだけのところです。

この作品の、また絵本のおもしろいところなんですが、実際のエンディングについては、文字として書かれていない、絵として描かれているのではないかと思うんです。

最後のページをめくった裏側には、ふみ潰されたあとに、また芽を出し始めたゆりの絵が書かれています。

そして表紙の画像たくさんのゆりに囲まれて絵を描くどろぼうの姿、裏表紙には、たくさんの花に囲まれたどろぼうの住む小屋が描かれています。

踏み潰されたと思っていたゆりの花は、翌年には大きな花を咲かせるのです。改心したどろぼうは、諦めずに花を育て、たくさんの花に囲まれて幸せに生きているんです。

どろぼうが望んだ叶わなかった未来という可能性も無きにしもあらずですけども笑

一見すると、希望のない悲しい話のように見えて、よく見たら幸せな結末が描かれているなかなかに面白い作品だと思います。

文字で書いてしまうとストレートすぎて安っぽい結末みたいになってしまうところを、こうやって絵だけで描かれているのは奥ゆかしくっていいですね。

読み聞かせをするとしたら、どうやったらこの最後の希望のところをうまく伝えられるのか?どうやって見せるのがいいのだろうか? 考えてみるのも面白いんじゃないでしょうか(考えてるんですが、どうしたらいいのか悩み中です)。

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